メイドの剣

 昔々、あるところに、おちぶれた貴族の男の子とそれに従うメイドさんがいました。
 貴族の男の子はティータという名前です。彼は、自分の家をこわした悪いりょう主に立ち向かうために旅を続けていました。
 そんなティータといっしょにいるのはメイドさん。
 メイドさんはメイドさんです。昔からメイドさんをしていました。生まれてすぐにティータのメイドさんでした。
 だからメイドさんはメイドさんとしか呼ばれません。なぜなら彼女は生まれたときからメイドさんだったからです。
 そんなメイドさんは、正しくはお姉さんみたいな立場なのかもしれません。なので、お金が無くてもメイドさんはティータといっしょにいました。

 ティータの家からそのりょう主のやかたまではとても遠いのです。たどりつくには太陽が何回もうかんで沈んでをくりかえさなければなりません。もたもたしていたら空の神様が一周してしまうかもしれません。
 そんな遠いところからどうやってティータの家をこわすことができたのでしょうか。
 何故ならりょう主はわるい魔法使いだったのです。ひきょうにも、りょう主は遠いところから一方的に魔法でティータたちをおそったのでした。
 ティータはそのときに、メイドさんいがいのみんなをうしないました。メイドさんはとても強かったのでぶじでした。メイドさんはがんばってほかの人も助けようとしましたが、ティータしか助けられませんでした。
 そんなりょう主にはむかおうとする人は誰もいませんでした。みんなりょう主が怖いのです。そんな中、ティータはりょう主をこらしめるために立ち上がりました。つまり、ティータはわるい魔法使いを退治する勇者だったのです。
 二人はとても長い時間を歩いていました。その間、メイドさんはティータの周りに気を配って、悪い怪物がおそってこないかよくかくにんしながら歩きます。
 たいへんさは、お屋敷にいるときとかわりません。お屋敷にいる間は、ほかのメイドさんからたくさんのいやがらせを受けても平気でした。同じように、悪い怪物にいじめられても大丈夫なのです。そうなのです。メイドさんはとてもとても強いのです。
 メイドさんはティータのお母さんでもありました。お母さんはざんねんなことに悪い人でした。ティータをいつもほったらかしにして遊ぶので、メイドさんはがんばってお母さん役をつとめました。だからティータのお母さんはメイドさんです。でもメイドさんのお仕事はお母さんのかわりでもあるので、やっぱりメイドさんはメイドでした。
 メイドさんはティータを困らせてはいけませんでした。何か困ったことがあればすぐにかいけつします。だからティータよりより多くのことを知っています。だからメイドさんはとても物知りです。メイドさんはとてもかしこいのです。
 さらにメイドさんは、さっきも言いましたがいじめられっこでした。ティータはとてもかわいい男の子だったので、ほかのメイドにも愛されていました。だから、お母さん役のメイドさんがきらいだったのです。でもメイドさんはとてもやさしかったので、そんな人たちをうらんだりしません。しょうがないことだと考えて、いつも笑っていました。  そしてさいごに、メイドさんはとても美人さんでした。とてもかわいいティータにおにあいの、とてもかわいくてきれいなメイドさんでした。

 そんなメイドさんをメイドにもっているティータがわるい子になるわけがありません。ティータはとてもいい子だったので、わるいりょう主をこらしめるために、がんばって旅をする決意をしました。
 メイドさんは毎ばん、剣の使い方をティータにおしえます。メイドさんはとても強くておしえ方がとてもじょうずなので、ティータはどんどん強くなっていきました。
 ティータはやさしいので、いつもがんばるメイドさんのお手伝いをします。でもメイドさんはメイドさんなので、ご主人さまのティータにお仕事はさせませんでした。だからティータはいつもやきもきしてしまいます。それだけティータはやさしいのでした。

 とてもとても長い長いあいだ歩いていると、まっ黒な塔が見えてきました。あれが、りょう主のやかたでした。  まっ黒なのでとてもこわく見えます。ティータは少しふるえながら、メイドさんを見ます。メイドさんはゆらゆらとスカートをたなびかせながらいつもどおり立っていました。メイドさんはいつも、ほうとして立っています。そんないつもどおりのメイドさんを見ながら、ティータはがんばって勇気を出しました。
 強くても、やさしくても、やっぱりまだティータは子供なのです。でも、それでもがんばるティータは、メイドさんのほこりでした。

 塔の中は、とてもひんやりとしてくらくて、しずかでした。それが逆にこわく、ティータはびっくりします。  でもティータはがんばってりょう主をこらしめなければならなかったので、がんばってかいだんをのぼっていきます。くらいので、メイドさんはティータが足をふみ外さないかとどきどきしました。

 どのくらい上ったのでしょうか。やがて広間に出ました。そこにはたくさんのけはいがあります。
 ティータはあわてて剣をかまえます。メイドさんも剣をかまえます。メイドさんは魔法の力で力持ちだったので、とても大きな剣です。
 こうもりのような怪物が飛んできました。ティータはおちついて切り付けました。
 ちゃんと当たって、怪物はたおれました。次にやってきたのは、いわのような怪物。
 ティータは剣をふりましたが、怪物はとても表面がかたかったので、ぜんぜん歯がたちません。そこでメイドさんはちからをこめて、大きな剣でこうげきしました。
 さすがメイドさん。たやすく岩の怪物をたおしてしまいました。
 でも気配はまだまだたくさんありました。どうやらこのやみの中にはとてもたくさんの怪物がいるようです。  メイドさんはティータに言いました。

 わたしがくいとめますので、ご主人さまはりょう主のところにおいそぎくださいませ。

 ティータはこまりました。

 メイドさんがいっしょにいないといやだ。

 そしてティータはたくさんの怪物がいる、やみの中に走ります。メイドさんはその後をおいかけました。
 てあたりしだいにティータはこうげきしました。もう、怪物を切っているんだかやみを切っているんだか分かりません。
 ティータはこわがりません。メイドさんがいれば何でもできる気がしたのです。じっさい、ティータはとても強いので、怪物をばっさばっさとたおしていきました。そんな強いティータを見て、メイドさんはとてもうれしくなりました。

 よそう以上にティータがつよかったので、りょう主も本気を出しました。
 わるいりょう主はとてもおおきなドラゴンを召かんしました。塔がじしんみたいにゆれます。
 さすがのメイドさんもこれにはびっくり。あわててティータをつれてにげ出しました。
 でもティータはあきらめませんでした。ひとりでもがんばってあのドラゴンをたおそうとします。
 メイドさんは知っています。このドラゴンはへんなかおをしていますが、とてもわるくて強いドラゴンなので、ティータではとてもたおせません。このドラゴンはとてもこわくてあぶないのです。
 だからメイドさんはいそいでティータといっしょににげました。
 このドラゴンはへんなかおをしていますが、とてもかしこいので、人間の見えないところからこうげきしてきます。だからにげ切ったと思ってもだめです。完全にとおくまでにげないと、このドラゴンはあきらめてくれません。

 でもそんなことをティータは知りません。このドラゴンをたおさないとわるいりょう主に会えないので、ドラゴンをたおそうとします。
 それはむりなのです。ティータではドラゴンをたおせないのです。
 ティータはメイドさんの手をふりほどいて、ドラゴンのところに走りました。
 でも、ほら、いまもティータの見えないところから、とてもするどい爪をのばしています。このドラゴンは爪がとても長いのです。
 ティータはきづきません。目の前にいるドラゴンをたおすために、どんどん近づいています。
 メイドさんは爪がティータをこうげきしようとしているのに気づいて、あわててティータをおいかけます。
 メイドさんはそのスカートがじめんにこすれるのも気にせずに、風よりもはやく走りぬけました。
 ティータの目のまえに立ったとき、その大きなドラゴンはひょうてきを変えました。
 メイドさんはいつもとちがう、とてもおびえた顔でした。もう、ドラゴンからにげ出すにはちかすぎます。ドラゴンのまっくらな目にすいこまれるみたいになって、メイドさんは泣きたいきもちになりました。
 いくら強いメイドさんでも、ティータを守ったままたたかえません。ドラゴンをたおすことはできるかもしれませんが、それだとティータがしんでしまいます。
 だからメイドさんはティータの方にふりむいて、全力でティータを押しとばしました。

 そのとき、ティータはメイドさんを見うしなってしまいました。

 水みたいなものが、ティータのほうにまでとんできます。ティータには何がおこったのか、まったくわかりませんでした。
 なにか大きくて赤い何かが、ゆらゆらとこっちに近づいてきます。メイドさんはどこにいったのでしょうか。暗くてよくわかりません。
 ぽたぽたという音は、目のまえの赤いものが出している音のようです。ずるずると、何かをひきずった音を出しながら、ゆっくりとこっちにまで近づいてきます。
 ティータはすっかりこしをぬかしてしまっていました。立ち上がれません。にげたくても、メイドさんがいないのでどうすることもできません。
 目のまえには何か赤いものと、とおくには大きくて黒いドラゴン。なにかの悪いゆめのようでした。
 目のまえにまでやってきた赤いものが倒れました。
 よく見ると、それはメイドさんでした。赤いのは血でした。人間にみえなかったのは、とてもぼろぼろだったからでした。メイドさんは、とてもとてもひどいけがをしてしまったのでした。
 足もとに血がたまっています。メイドさんはうごきません。ティータはあわてて、メイドさんをかかえあげてにげました。
 こわいのもなんのそのです。ティータはすごいはやさでかいだんをかけ下りてにげ出しました。
 ティータが何とか知っていた、きずを治す魔法も、ぜんぜん効きません。そうこうしているうちに、メイドさんはどんどんよわっていきました。
 ティータは泣きました。お父さんやお母さんが死んでしまったとき以上に泣きました。もうどうしようもないきもちでいっぱいになって、わんわん泣いてしまいました。
 そんなティータに、メイドさんはがんばって手をのばしました。
 メイドさんは何かを言っているようでしたが、泣きつづけるティータを見て、メイドさんもかなしくなって、少し泣いてしまいました。
 メイドさんは、自分がきずつくのは大丈夫でしたが、ティータがかなしむのはとてもいやだったのです。
 そして、メイドさんはもう、ティータのメイドができないということで、さらに泣いてしまいました。
 メイドさんは実はまだ子供だったので、それはもう、わんわん泣いてしまいました。
 そんなメイドさんにびっくりして、ティータは泣き止んでしまいました。
 ティータはあわててメイドさんをだきしめました。メイドさんはきずがしみましたが、ティータがだきしめてくれたのでおちつきました。
 メイドさんはがんばって泣きやむと、ティータに言いました。

 わたしがいなくなっても、おげんきで。

 そんな弱気なメイドさんに、ティータは言いました。

 メイドさんがいっしょにいないとだめだ。

 メイドさんはこまってしまいました。こうしているあいだにも、どんどん体が冷えていきます。
 ティータは今にも泣きそうです。泣くのだけはやめてほしいと、メイドさんは思いました。
 メイドさんはがんばって、さいごの魔法をとなえました。
 ティータが知らない魔法です。その魔法は、こんなときがあろうかと、メイドさんが、がんばって作ったものだったのです。だからとうぜんでした。
 魔法がとなえおわると、メイドさんの体が光りはじめました。ティータはメイドさんがどこかにいってしまうような気がして、メイドさんをだきしめました。
 メイドさんはさいごにこういいました。

 わたしはいつまでも、あなたをおまもりいたします。

 ティータがへんじをするまえに、光が消えました。
 メイドさんも消えてしまいました。あとにのこったのは、ひとつの剣。
 はじめて見る剣です。どことなく、メイドさんと、ふんいきがにていました。
 ティータはその剣を、しばらくのあいだみつめていました。
 やがて、ティータはなみだをふいて、立ち上がりました。
 なんだかもう、かなしくも、こわくもありません。
 ティータは、悪いりょう主をこらしめるため、もう一度、塔を上りはじめました。


 塔の上には、ドラゴンがいました。でも、こわくありません。
 ティータはすばやく走ると、ドラゴンのあたまをとびこえて、先にすすみました。
 ドラゴンがうしろから追いかけますが、その先はせまいかいだん。おおきなドラゴンは先にすすめません。
 ドラゴンがとまどっているあいだに、ティータはどんどんかけ上がります。
 やがて、ごうかな広間に出ました。
 そのおくで、大きなおじいさんが立っていました。そうです。あれが、わるいりょう主です。
 わるいりょう主はふしぎそうなかおをして、ティータに近づきます。
 ティータは剣をかまえます。剣からゆうきがわいてくるようです。
 わるいりょう主は、大きな火の玉をうちました。ティータはそれをたやすくよけると、りょう主に向かって走りました。
 そして、りょう主にとびかかって、ふみつけました。
 でも、りょう主はティータを見てわらっていました。
 その時、きゅうに剣が動き出しました。
 後ろで変な音。そして何かが天井にささりました。
 よく見ると、それはドラゴンの爪でした。
 気づけば、後ろにはさっきのドラゴンが、どこかいらいらしたようなふんいきでかまえていました。
 りょう主はびっくりしました。ま後ろからのびてきた爪を、ティータは切ったのです。ぜったいにささると思っていた爪がささらなかったので、りょう主はあわててしまいました。
 そして、ころさないでくれなどと、命ごいをはじめてしまいました。
 ティータは困りました。りょう主をこらしめるためだけにここにきたのに、なにかかんちがいをしているようです。
 しかたがないので剣をしまいました。すると、りょう主はまたいやなわらいかたをして、なにか魔法をはなとうとしました。
 でも、おなじときに、なにかがおちてくる音。
 さっきの爪で天井がこわれて、いま、それがおちてきたのです。りょう主はそれにきづきませんでした。
 りょう主はがれきの下にうまってしまいました。どうじに、ドラゴンもきえてしまいました。
 どうやら、わるいりょう主はしたじきになってしんでしまったようです。
 ティータはやさしいので、そんなりょう主をかなしくおもいました。

 ティータはとぼとぼと、ひとりでかえりました。
 長かった夜が、やっと終わりをつげました。
 朝日がとてもまぶしくて、なみだがでてしまいました。
 そして、メイドさんのことを思い出して、もっと泣いてしまいました。
 さっきひろった剣が、そんなティータをなぐさめるかのように、あわく光りました。


 十年たって、ティータはりょう主になっていました。
 あんなうすきみわるい塔ではなく、きちんとしたお城に住んでいます。
 そしてもう、二度とあんなひどいことがおこらないように、みんなのためを思ってきちんとお仕事をしていました。
 もちろん、そんなティータのはたらきにみんなはとてもまんぞくしています。今ではりっぱなりょう主さまなのです。
 ティータはとてもえらくなりました。たくさんの兵士やしつじがティータにつかえましたが、なぜかメイドだけはだれひとりとしてやといませんでした。
 そんなティータを、みんなはメイドぎらいだとうわさしました。でも、近くにいる人は知っています。ティータはだれよりも、あるメイドをあいしているということを。
 そんなティータのかたわらには、まるでメイドさんのようにかわいらしい剣がありました。







<あとがき>(2007/01/15)

 ある日、何をとち狂ったか『“メイド”という言葉をいくつ短編の中に入れることができるか』などという考えを持ちました。
 それを実行に移したのがこれです。  文章も、なるべく同じ単語が連発してもいいような、童話をイメージした文体でやっつけてみました。  それにしてもくどいです。冥土狂いです。百連発です。
 あと、これだけは言っておきたいのですが、自分は別にメイドに対して特別な思い入れはありません。本当!